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靴産業史と日本の職人たち『靴づくりの文化史』

靴づくりの文化史―日本の靴と職人 靴づくりの文化史―日本の靴と職人
稲川 實 山本 芳美

現代書館 2011-06
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 「ここ数年、日本は空前の紳士靴ブームだ」と
紳士 靴を選ぶ
』という新書が出版されたのが2007年。
その紳士靴ブームは2009年くらいから若者にも広がっていき、
2010年にはおじさまのイメージが強いローファーまで
取り入れる若者も現れました。革靴を履くというスタイルが若者にも
根付きつつあるように感じているのですが、何やら若者たちに
靴づくりブームも到来しているようなのです。



靴づくりの現場にとどまった職人たちが還暦をとうに過ぎ、
職人文化がついえようとした今になって、若者に未曾有の
靴作りブームが巻き起こっている。稲川さんは靴専門学校の
卒業生たちは80年代後半から90年代のバブル崩壊までの時期には
「これまでの若い人たちはたまに靴をやりたいと入ってきても、
デザインや企画、独立したいとばかり、考えていたんです。
社会性を身につけ地に足をつけて考える人が増えてきて、
仕事の伝承がやっと間に合ったんですよ。新しい業界人が
生まれるのを確認しながら、育てられるのが嬉しいですよね」と
大変喜んでいる。


 本書『靴づくりの文化史』はそんな靴作りに興味のある若者や
ファッション的な靴に関する本に飽き足らない人に向けて書かれた本です。
第1章の「坂本龍馬は日本で最初に靴を履いた人」という俗説の否定からスタートし、
第2章で日本の靴づくりの通史(歴史、産地、企業の起こりなど)をまとめ、
第3章では世界の靴づくりの小話(木靴、纏足、靴職人の聖人など)を紹介し、
第4章は靴産業研究の第一人者である著者の人生史から靴産業を眺め、
第5章で現在の靴づくりの現場の声を拾っています。
少し社会科の教科書を読んでいる気分になりますが(歴史や部落問題も関係するので)、
知られざる靴職人の話がてんこ盛りで面白いですよ。





「ここ(西成)の技術は、おっそろしいですよ。底付け師は一晩で
三足作ったんです。アトリエ西濱に来ている北九州出身の77歳の
ベテランさんの話だと、今でこそ一晩かかるとの話ですけど、
本当は一晩で三足作るのがここらへんの常識。靴はものすごく
細かい工程を踏むんで、120工程ぐらいありますけど、
それを一晩に三足こなす、とはすごいことです。」


本書を読んでいて衝撃を受けたのがこの箇所。どこぞの赤い彗星
みたいな技量が常識とは凄いですね(確か底付けは10時間くらいかかる)。
イタリアの職人と比べてもその技量は見事なものだったそうです。
この技術が失われつつあるとは残念としか言いようがありません。



 日本で職人が減ったのは1961年にセメント製法が完成したことにより
靴の大量生産が可能になったからです。欧米のような革靴文化が
成熟する前に「靴を履き捨てる」という感覚が日本人に生まれてしまい、
その結果、職人たちの仕事はなくなり、メーカーは問屋と力関係が
逆転し裏方へと追いやられていきました。本書には浅草の早川製靴の名前も出てくるのですが、
ミハラヤスヒロの靴とMOTOの靴が同じところで製造されており、
そこは一世を風靡した厚底ブーツも生み出したメーカーだということを
ほとんどの人が知らないですよね。注目されるのは職人ではなくあくまでブランドなのです。



 また、上記引用部の「ここ(西成)」は大阪の西成区なのですが、
かつて西成区から浪速区にかけて西濱と呼ばれていた一帯があり、
ここは浅草に次ぐ靴の一大生産地でした。関西で靴と言えば完全に神戸のイメージですが、
探せば大阪に靴職人は点在しており、10万円以下でオーダー靴(木型製作込み)が
作れることは意外と知られていないのかもしれません。


 ファッション誌の「英国靴VSイタリア靴」みたいな記事では
海外の職人やブランドが礼賛されていますが、靴好きの方は
応援する意味もこめて日本の職人にも目を向けて欲しいですね。
業界がファッション業界として華やかさを増す一方で、
先人たちの苦労が霞んでいるのが現在の靴産業です。靴に興味があるのなら、
是非本書を読み日本の職人たちがこれまで成し得たこと、
その仕事ぶり、数々の靴の技を知ってほしいと思います。






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この記事を書いた人

コメント

コメント一覧 (2件)

  • 数年の修業で独立する若いにわか職人さんなんかゴロゴロでてきてますねぇ。
    でも若い職人は技術以上にセンスがよくていいシルエットの靴作ったりするんですよねぇ。
    逆に老齢の職人は技術は凄いけどセンスが現代にそぐわないって人も多い気がしちゃって結局若手にオーダーしてしまう。

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