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ファッション・ブランドとデザイナーと呼ばれる戦士たち 塚田 朋子 同文館出版 2012-12-12 |
<目次>
第1章 きもの文化の国で闘う三宅一生と川久保玲
第2章 二一世紀の日・欧・米のファッション・ニュース
第3章 藤原氏全盛期から鎖国(海禁)前までの日本と欧州のファッション・ニュース
第4章 鎖国(海禁)期の日本と欧州と「アメリカ」のファッション・ニュース
第5章 帝国主義時代の日・欧・米のファッション・ニュース
第6章 一九四七年から二〇〇〇年までの日・欧・米のファッション・ニュース
終章 前衛よ、永遠に!
「1千年と2000年代前から愛してる」という著者の叫びが聞こえてきそうな労作です。
日本は00年代に入る前、90年代は「失われた10年」と言われておりますが
(日本のファッション業界は90年代からオワコン扱い)、著者は00年代前のファッションも好きだ、
むしろ1千年前ですら愛でてみせると服飾史をまとめております。
「ファッション・ブランドとデザイナーと呼ばれる戦士たち」というタイトルや表紙の
雰囲気からデザイナーの話が中心と思う人もいるでしょう(本屋ではモード・デザイナー
コーナーに置かれているくらい)。しかし残念ながら華やかなファッションの話はほとんどでてきません。
マーケターの視点で読み解くガチ服飾史(ビジネス寄り)です。絹製品、ギルド、呉服商などの
話がたくさん出てきます。お洒落なタイトルと表紙に騙された気分でござる(笑)
■縮小が著しい日本の衣料品市場から話がスタート
日本の衣料品市場の縮小が著しいことを総務省の『家庭調査』などが示します。
ピークの90年前後と比べると、2011年は半分以下に落ち込んだというのです。<中略>
日本のファッション業界の問題はかくも深刻です。なぜ、このような事態になっているのか。
どうしたらよいのか、根本問題はどこにあるのか。かなりハードですが、
今から、千年間の歴史をレビューしようと思います。
2章までに日本のブランドと戦うデザイナー(例:川久保玲)に触れ、
海外のブランドコングロマリットを取り上げながら日本の問題点を指摘
(コピー商品やライセンスに依存)。ここまでで約100ページあります。
そして本書のサブタイトルである千年前に一気に時代が飛ぶという流れです。
「ファッションブランドとデザイナーと呼ばれる戦士たち」というタイトルは
コピー商品で溢れる日本のファッション市場の中で前衛として海外のクリエーションと
戦っているデザイナーに敬意をこめてつけたのでしょうね。
■掘り下げると面白いニュースのページ
本書は日本と海外のエポックメイキングな出来事をピックアップしニュース形式で紹介するのがメイン。
ニュースは全部で120本。1ニュース800文字程度です。そして各時代の区切りごとに
ニュースやその時代の背景を解説する形で進みます。服飾史に関する本としては変わった構成です。
著者のサービス精神が旺盛なのかこの800文字に情報がぎっしり詰め込まれており、
文字数の関係で説明が少なくキーワードも唐突に出てくるので理解が難しいです。
挿絵が無に等しいほど出てこないのもつらい。あれもこれも伝えたいと、
主題とあまり関係のない情報も拾ってくるので何が何だかよくわからなくなり、
本筋を見失ってしまいます。ちょうどそれくらいのタイミングでニュースの解説が挟まれ、
一本串が通されるのですが、著者のテンションに置いていかれる感が半端ないです・・・。
私は一つ一つグーグルで検索しながら読み進めたので読破に時間がかかりました(汗)
例えば「ニュース78 1875年フランスとイタリアで蚕病が蔓延」。
欧州の養蚕業が壊滅的状態に陥り日本と中国に蚕を求めたというニュースです。
蚕病についての詳細が書いていないので調べてみると、蚕病とは黒い斑点ができる「微粒子病」のことだとわかり、
その原因を突き止め問題を解決したのが狂犬病ワクチンでおなじみのパスツール。
さらに、そのパスツールが研究用に使った蚕は徳川家茂よりナポレオン3世に贈られた
蚕の卵であったと繋がり胸アツであります。
その後、横浜から蚕の輸出がスタート。1922年には輸出総額の中で48.9%にも達したほどの花形産業となり、
ナイロンが登場するまで絹は外貨獲得産業として重視されていたようです。
絹は欧州でも日本でも最重要ワードの1つ。そこにパスツールと徳川家茂が服飾史の
文脈でこんなにも重要なポジションを占めるとは勉強になりました。
こんな感じで本書のニュースを掘り下げて調べ出すと面白くて止まりません。
参考文献のページが16ページもあるのでいくらでも資料に当たれそうです。
■現状を打開するには前衛が必要なのか?
日本のファッションが危機的状況(特に生産地)なので日本の服飾史を千年前から
見直し日本の強みを再発見しよう、その過程で欧州やアメリカの服飾史と対比させ
何が足りないのか自覚しようという意図も本書には込められております。
例えば、日本の衣服文化は平安時代の「雅」から始まった。それは「豪華絢爛」ではない
「微妙さ」を楽しむものだった。「世阿弥の花」はLVMHの総帥ベルナール・アルノー氏の
ブランド論に通じるものがある。ファッション業界はこれに学ぶ点が多いのではないか。
鎖国によって今日の「前衛」に繋がる「いき」が生まれた。その心意気が失われたのが90年代以降。
日本はファッション後進国になってしまった。などなど、そういう興味深い視点が
多数見られますので気になる方は本書をお読みくださいませ。
そして終章が「前衛よ、永遠に!」とあるように、縮小が著しい日本の衣料品市場を
打開するキーワードは「いき」文化から続く「前衛」だと著者は主張しています。
前衛ファッションにとってのマーケティングがうまくいくというのは、
できるかぎり具体的に客観的な内容の部分を消費者にアピールし、客の心に訴える、
というくらいのことしかできません。価格について聞かれたら?と考えると、
本当的に圧倒的に不利な役回りなのです。それでも、この意味の、前衛ファンに対する
ファッション・マーケティングだけが、日本のファッション業界全体にとっての命綱になるかもしれません。
目利きが「新しい西洋服後進国」で育てば、目利きを育てなかった同じ
西洋服後進国はいつまでも価格の安さ(と、ヒット商品のパクリのスピード)で
勝負しなければならないのですから。
コピー商品やライセンスに依存してきた業界人に目利きは少ない、
芸術(クリエーション)を理解しようとしないマーケター(ファッション=ただの服という認識)、
ファッションに興味を持たない若者…etc。日本に前衛として注目される才能が
生まれる土壌がないと嘆いておられます。
おそらく著者はベルナール・アルノー氏を成功者のロールモデルとして
分析しているので前衛推しなのでしょう。ベルナール・アルノー氏は
マーケティングよりデザイナーの創造性を重視しているからです。
ただファッション(≒ラグジュアリーブランド)において欧州の優位性は揺るがないので、
いくら日本に「いき」の文化があろうとそこで勝負するの!?と思ってしまいます。
偏見かもしれませんが、ファッション好きの識者は「前衛」という言葉をよく持ち出しますよね。
ファッションの評論も常に80年代がメインです。
思うに、今は芸術などのハイカルチャーからアプローチするファッション、
前衛的なドラマチックで目を引くようなクリエーションがメインの時代ではないと思うのです。
今はリアルクローズが主流です。過去のアーカイブから再発見の時代で、
そこにいかにデザイナーのテイスト、トレンド、大衆文化を盛り込むかという手法ではないでしょうか、良くも悪くも。
だからこそ、外国では何でも自由にミックスしてしまう日本のストリートが注目を集めています。
日本的な「前衛」よりストリートの「編集力」を評価していると思うのです。
過去のアーカイブから再発見し、高い編集力でクリエーションを行う、
その能力の高いデザイナーとして渡辺淳弥氏、鈴木大器氏、NIGO氏などもいるのですが、
この手の本でスルーされがちなのがいつも気になっております。前衛だけがクリエーションではないと思うのと、
海外にアピールすべき日本的なモノ(ジャポニズム)が前衛だというのも疑問です。
いつまでも80年代の前衛一点張りではなく、今闘っているデザイナーやクールジャパン的な価値観にも目を向け、それらを取り上げたりバックアップしていく方が建設的ではないでしょうか。
「最近の〇〇はなっていない!」的な事を述べて過去の栄光ばかり語っていても仕方がないと思うのですが・・・(もちろんそれも一理あるとは思いますけども)。その点が本書で腑に落ちなかった点です。

コメント
コメント一覧 (4件)
そう言えばもう三年経つんですよね、、
ふと思い出しました。
まさかこんな硬い本のレビューにもアニソンをほうりこんでくろとは・・w
編集者が「こういうカバーやタイトルのほうが売れますよー」って著者に力説している絵が浮かびます。
日本はモードでなくギャルとかカワイイとかそういう枠組みのなかで世界で勝負していくんだと思います。またはそういうテイストをモードとうまく調和させたファッションを生み出すデザイナーが現れるとか。
何事にも例外的存在、個人は存在しますが、西洋の枠組みでは西洋有利なので長く広いイメージではそうなると思います。
はじめまして!
どうしてもお礼を申し上げたいので、恥ずかしいのですけど、書き込みます!
読んでくださって本当にありがとうございます、もともと40・50・60歳代の女性だけに読んでほしいという意識でしたので(=その時点で、出版社さんから叱られている)、若い方が読んで下さっただけで、とってもとっても嬉しく思いました。
なお、私、ベイプも好きですし、ペイプ好きの子供たちもよい子ばかりなので、「想定した読者には、わかないだろ~な」と心配しながら、49ページと88ページにNIGOさんのことは書かせていただいてますので、もしも、ものすごくお暇な時に読んで頂けたらうれしいです。
とにかく、ありがとうございました、大感謝です。
>燕さんへ
そうですね。名前を出さなくともわかりました。
>mode du chefさんへ
硬い本に硬い長文レビューは読むのがしんどい・めんどうだろうなと思い、
出オチにしてみました(笑
>塚田朋子さんへ
はじめまして。
著者からコメントをいただけるとは光栄です。
49ページと88ページはもちろん読ませていただきましたが、
NIGO氏は「TIME」の特集で「アジアの英雄20人」の1人に選ばれたほどなので、
「ウラハラ」という小さな括りで局所的に取り上げるのではなく、日本のファッションの文脈的にも今のカワイイ・ポップカルチャーにつながりますので、もう少しボリュームを割いて欲しかったというのが個人的な感想です。
しかし、40・50・60歳代の女性向けならそういうアプローチになるのだろうと納得いたしました。